よくわかるM&A

2023/09/15

M&Aのメリット・デメリット-買手企業と売手企業の視点

M&Aのメリット・デメリット-買手企業と売手企業の視点

M&Aのメリット

近年、事業拡大や事業承継問題の解決のための1つの選択肢として、M&Aを利用する企業が増加しています。
M&Aのメリットには以下が挙げられます。

【譲渡企業(売り手側)のM&A メリット 例】

  • 事業承継問題(後継者問題)の解決
  • 経営者利益の最大化の実現
  • 企業の存続と発展
  • 従業員の雇用が守られる

【譲受企業(買い手側)のM&A メリット 例】

  • 競争力の強化
  • シナジー効果
  • 時間の節約
  • 規制市場や外国市場への参入

M&Aを成功させるためには、譲受企業(買い手)と譲渡企業(売り手)の視点からメリットとデメリットを把握し、さまざまな種類があるM&Aの手法の中で自社に合った手法を選択することが重要です。

本記事では、M&Aのメリット・デメリットを買い手側と売り手側の視点からわかりやすく解説します。

・関連記事:M&Aとは?M&Aの意味・流れ・手法など基本を分かりやすく【動画付】
・関連記事:事業承継が問題になっている背景と解決策としてのM&A

M&Aの買い手側のメリットとデメリットについて

M&Aは譲受企業(買い手)と譲渡企業(売り手)の双方にメリット・デメリットがあります。
まずは譲受企業(買い手)の視点からメリット・デメリットを解説します。

譲受企業(買い手)のメリット譲受企業(買い手)のデメリット
・生産の効率化
(ノウハウと技術の獲得)
・競争力強化
・シナジー効果
・市場環境の変化への対応
・時間の節約
・規制市場・外国市場への参入
・資金の調達
・計画的に進まない
・融合に時間がかかる
・優秀な人材の流出
・シナジーが生まれない
・のれん代の減損リスク

・M&Aの買い手側のメリット

M&Aによって譲受企業は、生産の効率化や競争力強化、シナジー効果による経営の効率化などのさまざまなメリットを得られます。
以下、譲受企業のメリットについて詳しく解説します。

買い手側のメリット①:生産の効率化(ノウハウと技術の獲得)

今後の成長が期待される分野や収益性の高い分野に多くの資産を集中することは、経営戦略において重要です。M&Aを行い、他社の優れた技術やノウハウを獲得することで、事業規模の拡大や経営基盤の強化ができます。また、生産の規模が大きくなることで、製品1つあたりのコストが下がるといった規模の経済が期待できます。

あわせて、M&Aによって事業や企業を譲り受けることで、これまで注力できなかった分野や、新たな技術、生産のノウハウ、人材などを他社から譲り受け、生産体制を強化し収益性を高めることが可能となります。

実際に経済産業省の調査では、事業の譲り受けや吸収合併といった企業再編を行った中小企業は、労働生産性が向上する結果となっており、M&Aは生産の効率化にも有効であるといえます。


買い手側のメリット②:競争力強化

経済産業省の調査によると、2017年度に海外に現地法人を有する日本の企業は、25,034社と前年度の24,959社より6.5%増加しています。グローバル化が進むことで、コスト削減がより求められるなど競争が激しさを増しています。

特に、日本市場は少子高齢化による人口減少や長引く不況で市場が縮小傾向にあり、厳しい経営環境となっています。こうした中、M&Aによって他社を譲り受けることで、相手先のノウハウを獲得できるため、競争力の強化に非常に有効です。

また競合他社を譲り受ける場合、相手先のノウハウを獲得するだけでなく、市場におけるシェアの拡大にも繋がります。シェアの拡大は、取引先との交渉を有利にするなど競争力強化が見込めます。

その他にも、特定の地域に進出していない企業の場合、未進出のエリアの企業を譲り受けることで新たな地域での展開を実現することも可能です。


買い手側のメリット③:シナジー効果(経営の効率化)

M&Aによって、単純な足し算にとどまらない多くの効果を得られる可能性があります。こうした総和を超えて得られる効果を「シナジー効果」と呼びます。複数の企業が共同で事業を運営することで、販売、設備、技術などの機能を相互に活用できるため、多くのシナジー効果を見込めます。

補完的な事業を譲り受けることで、新たな価値を生むことが期待されるほか、重複している事業の統合、物流や生産体制の一体化などによる効率化、経営ノウハウの共有などでも、シナジー効果に期待できます。

▷関連記事:M&Aの成功を左右する「シナジー効果」とは。種類や事例と評価方法を紹介


買い手側のメリット④:環境変化への対応

インターネットの発展によるオンラインショッピングの利用拡大や、決済のデジタル化などによって、消費者の行動は日々変化しています。変化の激しい消費者の行動に対応するには、自社のみの努力では限界があり、同業種・異業種間での提携や統合が有効に働く場合があります。


買い手側のメリット⑤:時間の節約

事業の多角化や新規市場への参入を目指す場合、一から技術や事業を育て上げるには長い時間がかかる場合があります。特に、経営環境の変化が激しい現代では、可能な限り時間をかけずに事業を立上げて、目的を達成する必要もあるでしょう。

迅速に事業を立上げ、軌道に乗せる場合、すでにその事業を有している他社を譲り受け・提携するといったM&Aが効果的です。事業の立上げと成長にかかる時間が短縮されることはM&Aの大きなメリットです。


買い手側のメリット⑥:規制市場・外国市場への参入

金融や通信、航空、放送などの規制業種の場合、許認可などの法規制が存在しており、新たに市場参入するのは多くの手続きや時間を必要とします。こうした業界への参入を検討する際は、M&Aによって許認可などを含めて譲り受けることは有効といえます。

また、海外市場への進出は、法律や商習慣、言語が異なり難しいといわれます。そのため、進出したい国の企業を譲り受けることで、自社のみでの進出に比べて進出しやすくなる場合があります。さらに、すでにその地域でのノウハウやブランドを確立している企業と連携すれば、より多くのシナジー効果が望めるでしょう。

実際に日本企業による海外企業の譲り受けは増加しており、2018年度上半期の日本企業の海外企業に対するM&Aの金額は11兆7,361億円、件数も340件といずれも過去最高の結果となっています。このように海外市場の参入にもM&Aは活用されています。

▷関連記事:クロスボーダーM&Aとは?目的・メリットと成功のポイントから事例まで解説

M&Aのメリット・デメリット-買手企業と売手企業の視点

・M&Aの買い手側のデメリット

M&Aを成功させるためには、良い面だけでなくデメリットについても把握することが大切です。M&Aを行う譲受企業のデメリットには、資金調達が必要であることや計画的に進まないケースがあること、人材が流出してしまうなどが考えられます。

以下、譲渡企業のデメリットについて詳しく解説します。


買い手側のデメリット①:資金の調達

企業の譲り受けには多額の資金が必要です。特に規模の大きな企業や評価の高い企業の譲り受けほどその傾向は顕著ですが、中小企業であっても独自の技術を持つ企業の株式には、予想以上の評価額がつくケースもあります。

そのため、資金の調達はM&Aにおける課題の1つといえるでしょう。アイルランドの製薬大手のシャイアー社を譲り受けた武田薬品工業株式会社のように、大型M&Aによって負債が膨らみ、本社ビルなどの資産売却を行ったような事例も見受けられます。

▷関連記事:M&Aを目的として資金調達する方法とは?一般的な調達手法やLBO、MBOについても解説


買い手側のデメリット②:計画的に進まないことがある

M&Aは譲受企業と譲渡企業の双方が納得し、お互いにとって良い効果をもたらすことが理想です。ただ、双方にそれぞれ株主や社員、取引先といった多くのステークホルダーが存在するため、交渉が難航したり、株主総会や書類の作成に時間がかかったり、破談に終わったりするケースがあります。

また、異なる企業文化や制度を持つ企業同士が融合することになるため、組織体系や人事制度などのハードの面の統合が完了しても、企業文化や従業員の意識などのソフトの面が統一されるまでに、従業員同士の軋轢などが生じる可能性も考えられるでしょう。
このように、さまざまな理由でM&Aが成約するまでに想定以上の時間がかかってしまったり、計画的に進まなかったりすることがあります。

▷関連記事:M&Aにおける買い手の狙いは?目的・メリット・成功事例を紹介


買い手側のデメリット③:優秀な人材の流出

M&A後の労働条件の変更や、就労環境の変化、M&Aの目的などに対し、譲渡企業の従業員から理解が得られず、離職に繋がる可能性があります。
そのため、譲受企業は譲渡企業の人材の流出を防ぐため、M&A後の処遇やビジョンについて譲渡企業と事前に話し合った上で、M&Aには従業員にしっかりと説明を行い、理解を得ることが重要です。


買い手側のデメリット④:シナジーが生まれない

前述のような文化の違いなどによって、M&A後の文化や人材の融合が上手く進まなかった場合、M&A前に想定していたシナジー効果を発揮できない場合があります。
その他にも、M&A後に行われた社内システムや人事制度の融合が不適切な場合なども、シナジーが生まれない可能性があります。


買い手側のデメリット⑤:のれん代の減損リスク

会計上における「のれん」の減損処理が発生するリスクは、デメリットの1つといえます。のれんは、貸借対照表における勘定科目の1つです。具体的には譲渡企業の純資産(簿価)と実際の買収価格の差額を指しています。

譲渡価額に計上されたのれん代がM&A後に実際の価値よりも下回ると判断された場合、のれんは棄却され、減損の原因になります。のれんの減損が発生すると、資産の減額に合わせて決算書に表示する資産の金額も減少するため、決算時に減損処理をします。

減損が発生すると、資産の減少による財務面の圧迫、投資家には業績が不調という印象を持たれるなどのデメリットがあります。このように、M&Aにはメリット・デメリットの両面が存在しますが、多くの場合で買い手側にとっては、経営的なメリットがデメリットを上回ります。

M&Aの売り手側のメリットとデメリットについて

ここからは、譲渡企業の視点でM&Aを行うメリットとデメリットを解説していきます。

譲受企業(買い手)のメリット譲受企業(買い手)のデメリット
・事業承継問題の解決
・経営者利益最大化の実現
・企業の存続と発展
・従業員の雇用が守られる
・主力事業に注力できる
・売却益には税金がかかる
・時間的な制約がある
・取引先とのトラブルが生じる可能性がある
・自社を譲り受けてくれる会社と
 出会えるか

・M&Aの売り手側のメリット

譲渡企業のメリットには、事業承継問題の解決や経営者利益の最大化、企業の存続と発展を図れるなどがあります。
以下、譲渡企業のメリットについて詳しく解説します。

売り手側のメリット①:事業承継問題の解決

中小企業を中心に経営者の高齢化が進み、黒字であっても廃業を余儀なくされる企業が増加しています。中小企業は日本の産業を支えているため、その減少は日本経済全体の衰退をもたらすともいえます。

帝国データバンクの調査によると、2021年の日本企業の後継者不在率は全国で61.5%にも上ります。一方で、調査対象企業内で後継者の選定が済んでいる約10万社の後継者候補の属性を見ると「子供」が38.5%で最も多いものの、従業員など親族以外の第三者である「非同族」も35.0%と3割を超えて存在感を示しています。

近年では、実子が家業を継ぐという潮流が薄れつつあります。また、市場環境が不透明な中、無理に家業を継がせて我が子に苦労をさせたくないという考え方もあり、実子や親族による承継が減っているのです。

こうした状況を受け、政府も税制度の改正で事業承継を後押ししています。例えば、事業承継の際の贈与税・相続税の納税を猶予する、法人向け事業承継税制を平成30年度の税制改正で拡充しています。その結果、申請件数が年間400件から6,000件に迫る勢いで増加していると中小企業庁が発表しています。

M&Aによって、業績が良く意欲も高い企業に事業や会社を譲渡することで、こうした後継者不足の問題の解消につながります。

▷関連記事:事業承継を成功させる方法とは?事業承継としてのM&A


売り手側のメリット②:経営者利益最大化の実現

譲渡企業が中小企業の場合、オーナーである経営者が個人保証によって会社の負債を背負っているというケースが多く見受けられます。こうした場合では、会社を清算したとしても経営者個人に負債が残り、金融機関からの借入れの返済に追われたり、担保としていた資産(自宅・車など)を差し出す必要に迫られたりするケースがあります。

このような状況では、第二の人生に向けた資金計画が立たない状況にもなりかねません。M&Aによって会社を譲渡する場合、多くのケースで負債ごと譲渡します。負債などを譲受企業に引き継いでもらうことで、個人保証などの解消が可能となり、引退後に負債が残る可能性は低くなります。M&Aによって「ハッピーリタイアメント」に向けて、経営者利益の獲得ができるでしょう。

▷関連記事:M&Aによるハッピーリタイアの実現


売り手側のメリット③:企業の存続と発展

M&Aによって、企業や事業の存続と発展を図ることができます。廃業を選択すると、従業員は職を失うことになります。これまで自社を支えてくれていた従業員の未来を考えると、会社清算には踏み切れないという経営者の方も少なくありません。

M&Aでは、従業員の雇用継続を条件に掲げることが一般的です。そのため、従業員の雇用を継続したまま会社を引き継ぐことが可能です。また、雇用が継続されるため、退職金を支払う必要もなくなり、清算に比べて支出も抑えられます。

▷関連記事:従業員の待遇はどうなる?合併時の退職金制度や勤続年数との関係性について解説


売り手側のメリット④:従業員の雇用が守られる

先祖代々続く家業の場合などでは、「自分の代で会社をたたむことはできない」という意識を強く感じている経営者の方も多く見られます。M&Aによる譲渡を選択すれば、自らの代で廃業することなく、長年培ってきた技術やノウハウ、従業員や取引先との関係をそのまま譲渡することが可能です。

▷関連記事:高齢化・先行き不安による廃業の増加


売り手側のメリット⑤:主力事業に注力できる

複数の事業や多様な商品を展開している企業において、不採算事業や商品ブランドなどを事業譲渡や会社分割のスキームを活用して譲り渡すことで、主力事業や製品に注力できることがあります。

こうした経営資源の集中は「選択と集中」とよばれ、経営の効率化や業績向上に有効といわれています。例えば、不採算事業に投じていた人材や費用を主力事業に集中させて、主力事業をより成長させることができます。

M&Aのメリット・デメリット-買手企業と売手企業の視点

・M&Aの売り手側のデメリット

では、売り手側が注意すべきM&Aのデメリットはどのようなものがあるでしょうか。

売り手側のデメリット①:売却益には税金がかかる


中小企業のM&Aにおいてもっとも活用される手法である「株式譲渡」では、譲渡所得に対して20.315%(所得税+復興特別所得税15.315%、住民税5%:2019年1月現在)の税金が課されます。

譲渡所得は、譲渡価額から「取得費」と「手数料」を差引いて算出します。取得費は株式の取得にかかった費用のことで、創業者では会社を設立した際にかかった費用のことです。手数料はM&Aアドバイザーなどに支払った費用を指します。

ただし、会社清算に比べると、譲渡税を引いたとしても、得られる金銭は多くなることが一般的です。

▷関連記事:株式譲渡にかかる税金って何があるの?その種類や計算方法を徹底解説


売り手側のデメリット②:時間的な制約がある


M&Aで事業や会社を譲渡するには、譲渡先の企業を探す必要があります。譲渡先の候補が見つかったとしても、企業の現状や情報をまとめたり、条件交渉を行ったりと、数ヶ月から数年の交渉が必要になる場合もあります。

また、交渉が難航した結果、お互いの条件が折り合わずに破談となることもあるかもしれません。そのため、M&Aによる第三者承継を検討する場合は、いつまでにM&Aをしたいのかということを考えるとともに、念入りに準備と計画を進める必要があります。

▷関連記事:M&Aを売り手企業の視点から考える手続きの流れ、メリット、リスクとは


売り手側のデメリット③:取引先とのトラブルが生じる可能性がある


M&Aによって企業のオーナーや経営方針が変わることで、取引先から取引の減少や停止を求められることがあります。また、取引先との契約にチェンジオブコントロール条項が定められている場合、同条項をもとに契約が解除される可能性もあります。

そのため、場合によっては事前に取引先にM&Aの目的や今後の方針などを伝え、理解を得る必要があるケースもあります。

▷関連記事:「チェンジオブコントロール条項(COC)」とは?目的や注意点を徹底解説


売り手側のデメリット④:自社を譲り受けてくれる会社と出会えるか


譲渡企業においては、自社を譲り受けてくれる会社と出会えるかが課題となります。従業員の雇用は継続されるのか、シナジーを見込めるのかなど、譲渡先を決める際に考慮すべき点はさまざまあり、M&Aを成功に導くためには最適なマッチングが大切です。
しかし、譲渡先の候補を自力で集め、その中から自社に適した企業を見つけ出すことは難しいのが実情です。M&A仲介会社など、専門家による助けを得ながら進めていくべきでしょう。

M&Aのスキーム(手法)別のメリット・デメリットについて

M&Aの手法はさまざまありますが、M&Aを行なう際は自社の目的にあった手法の選択が大切です。
ここではM&Aで活用されることが多い、以下の手法についてメリットとデメリットを解説します。

・株式譲渡
・事業譲渡
・会社分割
・株式交換・株式移転
・新株引受け
・合併

・株式譲渡のメリット・デメリット

株式譲渡は、譲渡企業の株式を譲受企業(または個人)に譲渡することで経営権を移転させる方法です。会社の経営権は50%を超える株式の譲渡で移転されますが、M&Aでは100%の株式譲渡が一般的です。
譲渡企業の株主は、株式を譲渡する代わりに譲受企業から対価(原則、現金)を受け取ります。

M&Aの手法の中で、株式譲渡は株主が変わるのみで全ての資産や取引上の契約を引き継げるので、法的な手続きが比較的簡便などのメリットがあります。一方、デメリットとしては、譲受企業は譲渡企業の資産だけでなく、簿外債務などの負債も引き継ぐため、経営リスクも引き継いでしまう可能性があります。

  • メリット:法的手続きが簡便
  • デメリット:譲受企業は譲渡企業の経営リスクも引き継ぐ可能性がある

・事業譲渡のメリット・デメリット

事業譲渡は、譲渡企業の事業の一部または、全ての事業を譲受企業に譲渡する方法です。
譲渡企業が特定の事業だけを譲渡したい場合や、譲受企業が赤字事業の承継を避ける場合などに利用されます。

譲渡企業にとっては手放したくない事業や資産を残せるなどのメリットがあり、譲受企業にとっても承継したい事業や資産を選べるなどのメリットがあります。

一方、デメリットとしては、事業譲渡では資産・負債・契約等について、それぞれ個別の事業譲渡契約が必要になるため、譲渡または承継する事業をしっかりと見極めなければ双方が税金や負債により損をしてしまう可能性があります。

  • メリット:譲渡または承継する事業を選択できる
  • デメリット:譲渡または承継する事業を見極める必要がある

・会社分割のメリット・デメリット

会社分割は、譲渡企業の特定の事業だけを譲受企業が承継する方法です。

会社分割には、新たに新設する会社に事業を承継する「新設分割」と既存の会社へ事業を承継する「吸収分割」があります。

また、会社分割と事業譲渡は、譲渡企業の特定の事業だけを譲受企業が承継するという点では同じですが、前者は「包括承継」、後者は「個別承継」といわれ、会社法や税務などのさまざまな面で違いがあるため、自社の状況に合わせて選択するとよいでしょう。

会社分割のメリットとしては、包括承継となるため、従業員との労働契約などを締結し直さなくて済むなどがあり、デメリットには税務手続きが複雑であることなどが挙げられます。

  • メリット:従業員の労働契約を締結し直さなくて済む
  • デメリット:税務手続きが複雑になる

・株式交換・株式移転のメリット・デメリット

株式交換は、譲受企業が譲渡企業の発行済み株式の100%を取得することで、完全な親子関係を築く方法です。基本的に譲受企業が上場企業の場合に用いられることが多く、譲渡企業は自社の株式を譲渡する代わりに、譲受企業の株式の交付を受けます。

一方、株式移転は、譲渡企業の発行済み株式の100%を新しく新設する会社に移転させ、自社を完全子会社化する方法です。一般的にホールディングス設立などで利用されます。

株式交換・株式移転では、譲渡企業への対価が株式となるため、親会社に十分な資金が無くても譲渡企業の完全子会社化が実現できるなどのメリットがあります。デメリットは、株主構造や既存株主の持株比率が変わってしまう可能性があることです。

  • メリット:譲渡企業への対価が株式となるため、親会社は現金を必要としない
  • デメリット:株主構成や既存株主の持株比率が変わる可能性がある

・新株引受けのメリット・デメリット

新株引受け(第三者割当増資)は、既存の会社が新たに株式の発行を行い、特定の第三者に株式を割り当てることで対価として現金を受け取る方法です。主に資金調達の手法として知られていますが、新株引受人が株式発行会社の一定の株式を取得できることから、企業同士の資本業務提携を目的としてM&Aでも活用されています。

新株発行会社が新株主を選択できるため、自社と関わりのある企業に新株を引受けてもらうことで、事業面で安定した関係性が構築できるなどのメリットがあります。ただ、デメリットとして、新株発行会社であれば既存株主の持株比率の低下、新株引受人側は発行会社の100%の株式を取得できないなどがあります。

  • メリット:新株発行会社と新株引受人(企業)間で事業面の強化ができる
  • デメリット:既存株主の持株比率の低下(新株発行会社側)、100%の株式を保有できない(新株引受人側)

・合併のメリット・デメリット

合併は、2つ以上の複数会社が1つの会社に統合することです。合併する会社(被合併会社)は消滅してしまう特徴があり、統合の際に、被合併会社が消滅と同時に新しい会社を新設して権利や資産を承継する「新設合併」と、既存の会社が被合併会社の権利や資産の全てを承継する「吸収合併」の2つがあります。

合併のメリットは、被合併会社の技術やノウハウを承継することで新規分野への進出や既存事業の強化が期待できることです。
対してデメリットは、被合併会社の簿外債務などの経営リスクも引き継ぐ可能性があることです。

  • メリット:新規分野への進出や既存事業の強化が期待できる
  • デメリット:簿外債務などの経営リスクを引き継ぐ可能性がある

M&Aによる影響について

M&Aは、譲渡企業と譲受企業の従業員はもちろん、既存の顧客(取引先)や地域にも影響を与える可能性があります。

ここでは、M&Aが与える影響について、従業員、顧客、地域に焦点を当てて解説します。

・従業員への影響

M&Aを行うことで、譲渡企業と譲受企業の従業員にメリットやデメリットを与える可能性があります。

例えばメリットでは、譲渡企業と譲受企業のより良い規則や制度を採用することで、M&Aを行う以前より職場環境が改善されたり、福利厚生が充実したりして、従業員のモチベーションが高まる可能性が考えられます。

一方、デメリットは、譲渡企業と譲受企業の従業員間で待遇や人事評価に差が出てしまい、従業員の不満に繋がることなどが考えられます。M&Aでは譲渡企業が譲受企業の規則や制度に合せるのが一般的なため、特に譲渡企業の従業員については業務体制や社内環境の変化による精神的ストレスのケアなどが必要となるでしょう。

・顧客への影響

M&Aは社内だけでなく、社外にも影響を与える可能性があります。影響を与える代表格は譲渡企業と譲受企業双方の既存顧客(取引先)です。

例えば、M&Aによって譲受企業が事業の拡大に成功した場合、商品やサービスの充実や生産プロセスの効率化に伴う販売価格の低下などが実現され、既存の顧客は満足度が高くなるかもしれません。また、譲受企業が譲渡企業の事業を承継することで、譲渡企業の既存顧客はM&A後も取引を行うことができます。

一方、デメリットとして、譲渡企業と譲受企業が異なる事業分野であった場合、M&Aによって既存顧客と競合関係になるケースがあります。そのため、取引条件が変更になったり、取引自体が継続できなくなったりする可能性も考えられます。

・地域社会への影響

M&Aは、譲渡企業の営業範囲に含まれる地域にも影響を与える可能性があります。

例えば、メリットとして、後継者問題や経営の悪化などで廃業を検討する企業が、M&Aによって譲受企業に事業を承継できれば、地域経済の基盤を維持できます。また、事業の統合によって地域の利便性もさらに増す可能性があるでしょう。

一方で、M&Aによって譲渡企業の事業の一部が廃止された場合、廃止された事業を利用していた地域住民にとってはデメリットになってしまうかもしれません。

M&Aの事例紹介

ここでは、近年で大きく話題になったM&Aの大規模案件や、M&Aを活用して事業承継に成功した実例を紹介します。

・マツモトキヨシとココカラファインの経営統合

021年10月、ドラックストア業界業界6位のマツモトキヨシホールディングスと7位のココカラファインが株式交換による経営統合を行い、「マツキヨココカラ&カンパニー」が発足しました。6年ぶりにドラックストア業界の上場企業同士が合併したことでも大きな話題となっています。

この経営統合によって、国内で売上高1兆円、3,000店舗の規模を有する業界トップクラスの企業が誕生となり、ヘルス&ビューティ分野での圧倒的なプレゼンスの獲得と、中長期的に企業価値を最大化させることを目的として掲げています。

また、マツキヨココカラ&カンパニーは、2026年3月期、グループ売上高1.5兆円、営業利益率7%を目指すとしており、今後の動向に注目が集まっています。

・山昭運輸株式会社による徳三運輸倉庫株式会社への譲渡

2019年4月、自動車運送業を営む山昭運輸株式会社は自動車運送や倉庫業、産業廃棄物収集運搬などを行う徳三運輸倉庫株式会社に譲渡をしました。

山昭運輸の山本社長は、一部上場企業に勤めながら家業を継ぎ、会社経営を行っていました。「家業を終わらせない、従業員の生活を守らなくてはならない」という想いを持ち経営されていたのです。しかし、ご子息がおらず後継者の候補がいないことから、M&Aを選択肢のひとつ1つとして考えていました。

このような状況の中、同じ地域においても事業を展開する徳三運輸倉庫と出会い、成約となりました。家業を存続させただけではなく、山昭運輸の良い部分は残しながら、徳三運輸倉庫とあらゆる面での見直しを行い、1車両当たりの売上を過去最高にまで高めることに成功しました。

▷関連記事:二足のわらじで10年、家業を守った社長の決断

まとめ

近年、M&Aは事業の拡大や事業承継の手段の1つとして利用されています。譲受企業と譲渡企業の双方にメリットとデメリットがあるため、それぞれの視点からM&Aの特徴をしっかりと把握することが重要です。

また、M&Aを成功させるためにはスキームによる違いや、M&Aが社内外に与える影響まで理解しておく必要があります。高度な専門知識や経験も必要になるため、M&Aを検討する際は専門家に相談するのがおすすめです。

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